初めての人でも現地に行けば何かを得られる
[2020/01/30]
アジア太平洋地域でキャリア支援をしている実務家や研究者が集まる団体、アジア太平洋キャリア開発協会(略称:APCDA)。歴史が浅く会員数も少ないので、人間味があって柔軟な組織とのことです。年に1回開催される年次大会では、各国・各地域におけるキャリア開発/支援の考えや経験が参加者にシェアされます。2020年はインド、2021年はシンガポール、2022年はカザフスタンで開催されるそうです。
「海外なんて、私には観光くらいしか縁がないから」と思うかもしれませんね。でも、縁は自分でつくることもできますよ。実際、日本のCDAやキャリアコンサルタントも参加しています。そのうちの2人、APCDA理事の浅賀桃子さんと、同・日本カントリーディレクターの大井芳暢さんにお話をうかがいました。ぜひ、その魅力に触れてみてください。何かのきっかけになるかもしれません。
(前回記事の案内)
APCDAの概要については前回の記事をご覧ください。
https://www.nipponmanpower.co.jp/ps/choose/column/details.php?col_id=LRS8J2NX
●今回お話を聞いたのは・・・
APCDA 理事
浅賀 桃子 さん
ベリテワークス株式会社 代表取締役
CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)
APCDA 日本カントリーディレクター
大井 芳暢 さん
CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)
目の前にチャンスがあるのだから
――そもそもお二人は、なぜCDAを取得されたのでしょうか。
浅賀 私がCDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)の資格を取ろうと思ったのは2007年です。当時、IT系企業で人事担当をしていて、採用や労務の仕事に必要性を感じたため、日本マンパワーの「キャリアカウンセラー養成講座」(現在の「キャリアコンサルタント養成講座」の前身)を受講しました。その後、2回の転職を経て、2010年に個人事業主としてメンタルヘルスやキャリアカウンセリングに関するサービスを開始し、2014年に法人化しました。現在は、カウンセリングサービスに加えて、人事労務サービスやシステム開発の事業も行っています。CDAの学びはさまざまな面で役立っています。
大井 私も、浅賀さんとほぼ同じ頃にCDAを受講・取得しました。受講当時は通信会社の人材開発部署で、ミドル向けの研修計画や運営、新入社員の研修を担当していました。そうした中で、新入社員にキャリア面談を実施することになったのですが、初めての経験で何をどのように聞けばいいのかわかりません。でも、CDA資格を持った同僚が面談すると、新入社員はなぜかいろいろ話します。それが不思議で周囲の同僚に聞いたところ「キャリアカウンセラー養成講座」の存在を知り、受講することにしました。
その後、キャリア支援の仕事への想いが積もり、新しい世界へ踏み出そうと、23年間勤めた会社を2019年6月に退職しました。
――APCDAにはどのようなきっかけで関わり始めたのですか。
浅賀 私は初回大会から参加しています。それが2013年4月のことですから、その何ヵ月か前にAPCDAについて知ったことになります。最初のきっかけは、1通のメールマガジンでした。キャリアカウンセラーとして本腰を入れて活動し始めた頃で、「自分の強みとなるような何かが見つかるかもしれない」という期待が半分、「会場である韓国に行ってみたい」という想いが半分だったでしょうか。英語はそれほど得意ではありませんでしたが、自分が発表するわけではないので軽い気持ちで参加しました。
初めての大会参加はとても楽しく過ごせました。日本人はごく少数でしたが、韓国の地元の人と仲良くなり、双方の文化の違いを知るなど大きな学びになりました。
以来、2019年のホーチミン大会まで、全7回すべての大会に参加しています。すべてに参加しているのは、日本人でおそらく私1人だけだと思います。
大井 私は、ホーチミン大会が初めての参加でした。APCDAの存在自体は以前から知っていて、2〜3年前から「行ってみたいなあ」と思っていました。ふらっと観光旅行というわけではなく、何か目的を明確にして海外に行くことに価値観を持っていたので、目の前にチャンスがあるのだから一歩踏み出してみようと思いました。また、ちょうどその前に参加したある学習会で、ホーチミン大会で発表されるCDAの方にお会いしました。その人に「ご一緒してもよろしいですか」とお願いして、同じ飛行機でホーチミンに向かいました。
全米キャリア開発協会のプレジデントが推薦
――お二人ともAPCDAの役職に就いていらっしゃいますが、どのような経緯でそれに至ったのでしょうか。
浅賀 私は、第2代目の日本カントリーディレクターでした。カントリーディレクターとは、国内のキャリアカウンセラーメンバーと交流して活動状況を把握し、必要に応じて支援をする役割です。前任の日本カントリーディレクターからお声掛けしていただき、2016年から務めました。任期は2年ですから2018年まで務める予定でした。
でも、2017年のマニラ大会でちょっとした出来事がありました。その時、私は「Possibility of career counseling combining "Personality Analysis" tools and the comic "Peanuts"」(個性分析ツールと漫画『Peanuts』を組み合わせたキャリアカウンセリングの可能性)というテーマで発表をしました。『Peanuts』のキャラクター・スヌーピーを取り入れたキャリアカウンセリングについて経験をシェアしたのです。そうしたら、非常に熱心に聴いてくれた参加者がいました。名刺交換をすると、その方はなんと全米キャリア開発協会(National Career Development Association:NCDA)のプレジデント(当時)でした。そして後日、私をAPCDAの理事に推薦してくれたのです。そうした経緯で、日本カントリーディレクターは任期を待たずに退任し、2017年から理事となりました。現在2期目です。
――大井さんは初参加してすぐにカントリーディレクターへ着任されたのですね。
大井 そのくらい、APCDAは敷居が低くフレンドリーだと言えます。国際的な団体ではありますが、2012年設立の歴史の浅い団体だからだと思います。カントリーディレクターはボランタリーですが、さまざまな人とお話しする機会があり、とても勉強になっています。
――年次大会の期間中は、どのようにして過ごされたのですか。
大井 大会は数日にわたって行われ、基調講演や分科会に自由に参加することができます。私は、日本のCDAお二人の分科会に参加したほか、プログラムを片手に会場の様子をうかがいながら、興味のある分科会を選んで参加しました。英語はそれほど堪能ではありませんが、参加者がカウンセラー気質の方ばかりですので、皆さん温かく受け入れてくれました。会場にはスマホのアプリなどで翻訳しながら聴いていた人もいるほどです。
大会の合間には現地の街なかや博物館なども見学し、社会勉強にもなりました。
“行かない理由”ではなく“行く理由”を
――改めて、APCDAの魅力を教えてください。
大井 現地に行って街の様子を見たり、海外の参加者と情報交換をしたりするだけで、自分が先入観にとらわれていたことを痛感します。また、各国の参加者は、大学研究者や起業家、行政・支援施設などのカウンセラーが多く、非常に内容の濃いお話ができます。特に、異文化に関心がある人、留学生の支援をしている人、英語を習っていた人、グローバルな仕事をしている人などは、APCDAの大会参加が新しい何かをつかむきっかけになるのではないでしょうか。
浅賀 スリランカのカントリーディレクターは20代半ばくらいの女性で、起業して精力的に仕事をしています。そうした人と触れ合うことは刺激的で、国内での座学ではなかなか知り得ることができません。NCDAなどと比べてAPCDAは規模が小さいので、参加者同士が仲良くなりやすく、発表者にも直接質問しやすいという良さもあります。
キャリアコンサルタントはもちろん、資格を持たないビジネスパーソンも新たな切り口を見出せるきっかけになるかもしれません。「仕事が忙しいから」「英語が苦手だから」など“行かない理由”をつけることは簡単ですが、あえて“行く理由”を見つけてみてはいかがでしょうか。初めての人でもきっと何かを得られるはずです。