ちょっと一息

私にとってのキャリアと学び vol.7

うまくいかず自分を全否定・・苦悩の過程で得られたこと

[2019/08/29]

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 大手自動車メーカーに就職した平石由雄さん。入社後は、系列販売会社の人材教育部門、営業職、グループ会社の管理職などを経て、40歳で自社系列の専門学校に出向。退職する63歳までの23年間を、学生募集と就職支援に尽力していました。しかし、就職支援をした卒業生が少なくない割合で3〜5年のうちに離職してしまう現実。次第にある思いが強くなります。
 「企業戦略に組み込んで人員の『量』を確保しようすることよりも、一人ひとりの『個』の思いを大事にすべきではないだろうか。私は一人ひとりを大事にする生き方をしたい」
 退職から半年後、平石さんは日本マンパワーの『キャリアカウンセラー養成講座』(現在の『キャリアコンサルタント養成講座』の前身)の受講を決意します。「退職後は組織に束縛されず、人のお役に立てることをしたい」と考えていたからです。

 以上は、前回の本コーナーでご紹介した平石さんのキャリアストーリーです。本記事はその続編となります。
 「一人ひとりを大事にする生き方をしたい」という平石さんは、その後、自分自身を全否定するほどの状態に追い詰められます。何がそうさせたのでしょうか? また、どのように立ち直ったのでしょうか?
 そのお話の中には、人としての深みがにじみ出ています。ぜひご一読ください。


●今回お話を聞いたのは・・・
 行政機関 就労総合相談員
 国家資格キャリアコンサルタント
 CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)
 平石 由雄 さん


栃木県から東京の教室まで

 『キャリアカウンセラー養成講座』を受講したのは64歳になる頃です。養成講座には10日間のスクーリングがありました。私は、住まいのある栃木県から東京の教室まで通いましたが、教室は素晴らしい出会いの場となりました。
 まず、インストラクターの先生が素晴らしい方でした。私とほぼ同い年の女性の方。その先生には、「人間そのものを応援したい」「お金のためにインストラクターをしているのではない」という信念が感じられました。また、「教えることに誇りを持っている」と感じさせる凛とした姿がとても魅力的でした。まさに尊敬できる先生でした。
 さらに、クラスメイトとの出会いもかけがえのないものになりました。さまざまな背景を持ち、さまざまな考えのもと集まった人が、仲間として同じ資格を目指して自己開示しながら苦楽をともにする。その感覚の心地よさは経験した者にしかわからないかもしれません。
 最初の授業のことは今でも覚えています。先生から「この部屋で見えるものの中で、何か気になることはありますか? それはあなたになんと語りかけていると感じますか?」という問いかけがありました。それについてグループで話し合うと、感じ方捉え方が人によってまったく違うことがわかりました。そして先生がこう言うのです。
 「相談者もそうです。感じ方や捉え方は人によって違うのです」
 その時初めて、自分が多面的に物事を見ることができていないことを実感しました。


合格できない自分を全否定

 しかし、試験は非常に苦労しました。初めて受験したのは第42回CDA資格認定試験です。1次の筆記試験は合格することができましたが、2次の面接試験は不合格。そこで、クラスメイトに誘われて100人ほどが登録する自主勉強会に参加し、ロールプレイングの練習に励みました。
 ところが、2回目も不合格。3回目も不合格。4回目も不合格。当時、CDAの面接試験は、合格率40%台と現在よりも難しめ。何度もロープレで練習し、その録音を聴き直し、逐語録に起こして修正したものを仲間に添削してもらうなど、できる限りの努力をしているはずなのに結果が出ない。不合格が続くうち、自分を肯定することができなくなってしまいました。
 「自分はどうしようもない人間だ」
 「いったい何のために勉強してきたのだろう」

 恥ずかしさと言いようのない強烈な劣等感。人格を含めて自分を全否定していました。

 ただ、そのおかげで自主勉強会で出会った多くの仲間と心の交流をすることができました。みなさん、不合格続きの私を、根気よく優しく献身的にサポートしてくれました。勉強会後には必ずと言っていいほど一緒にお酒を呑み、勉強や人生についてのいろいろな話をすることもできました。
 それにもかかわらず、5回目も不合格。CDA資格認定試験は6回までしか受けられない制度でしたから、残されたチャンスはあと1回になってしまいました。
 自主勉強会に参加したのは約70日。1日に2〜3回、ロープレをすることもありましたので、合計百数十回の練習をしたことになります。また、知り合った勉強仲間は約200人。合格できずに悩む仲間を徹底的に支援する「特訓塾」やSNSを通じて励まし続けてくれた資格取得者たち。そうした温かい仲間に感謝しながら、最後の6回目を受験しました。しかし、みなさんの期待に応えられず、残念ながら不合格となってしまいました。ついに、キャリアカウンセラーになることを諦めざるを得ませんでした。


仲間の存在が心の支え

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 知り合った勉強会仲間で合格できないのは極々わずか。その中で最多不合格記録の私。どん底の気持ちで、自分を全否定したままの日々を送っていました。そんなある日、予想外の吉報が仲間の一人から舞い込んできました。2016年4月に国家資格キャリアコンサルタントが誕生することになったというのです。なんと、再チャレンジできる道が拓けたのです。まさに「地獄で仏」の心境でした。諦めずに努力すれば報われることを肌で感じました。著名なスポーツ選手などが「あの時は最低な状態だったので、あとは上がるしかないと思いました」というコメントを寄せることがありますが、私もまさに同じ気持ちになりました。もし神がいるとすれば、「私にキャリアカウンセラーになれと言っている」とすら思いました。
 そこで、迷いながら再チャレンジを目指す仲間に声をかけ、勉強会を立ち上げました。先の自主勉強会でお世話になった何名かのCDAの方々に、再挑戦の意思と勉強会での協力をお願いすると、全員が即答してくれたのです。 しかし、キャリアコンサルタント試験は全く新しい資格でしたので、対策は手探りでした。2級技能士のCDAの方のアドバイスや指導、埼玉地区勉強会への個人参加等により受験対策を進めました。受験日直前には特に親交のあるCDAの方にお願いし、カフェで個別指導を受けたり心のケアを受けました。
 私は、このように仲間の皆様の支援を全面的に受け続けて、初めての自信を得ることができました。不合格を重ねていた頃は、理論的な知識ノウハウに基づく「試験での正解ロープレ」の追求に強くこだわっていたために、「クライエントという人間の気持ちを聴けていなかった」のだと思います。それに気づいた後は、クライエントの心に自然に集中するようになり、CDA時代から数えて9回目の受験で、ようやく国家資格キャリアコンサルタント試験に合格することができました。
 とても長い道のりでしたが、合格できたのは仲間のおかげです。「困っている」と相談すると、誰もが助けてくれたのです。協力することを断られたことは一度もありません。いくら感謝してもしきれません。本当に心の支えになりました。人は自分一人では弱いものです。勉強会だけでなく、何かがあれば精神的な支えになってくれる人々がいるということは、悩みの中にある人にとってものすごく大きいことなんだと、心底から納得しました。


自己理解、人間観、社会観が変わった

 キャリアカウンセラー/キャリアコンサルタントの受講・受験・資格取得を通して、自分は大きく変わったと思います。第一に、自己理解が格段に進みました。自分らしい価値観・考え方・感情を深く理解できるようになり、自分の過去と現在との因果関係もつなげられるようになりました。自分の中の矛盾も受け入れられるようになりました。自動車メーカー勤務時代に抱いていたコンプレックスも払拭できたように思います。
 また、人間観社会観も変わりました。以前の自分は薄っぺらだったなあと思います。人や物ごとを狭い視点から解釈し、それにこだわって一途に走るようなドン・キホーテ的気質があったのです。それが今は、多様な人の存在・思考・行動を当たり前のこととして受け入れられるようになりました。以前は興味が湧かなかった小説や映画も大好きになりました。ストーリー中心の味わい方だったのが、登場人物の心の動きや制作者の意図も想像しながら楽しめるようになりました。

 そして2018年4月、行政機関で県民のための就労支援の仕事に就くことができました。今、就労総合相談員として、相談にいらっしゃった方との初回面談を担当しています。

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★9回目の受験で見事合格し、キャリアコンサルタントとなった平石さん。その長きにわたるご苦労は、今、相談者に還元されていることでしょう。一人ひとりの思いに寄り添い個を大事にする、平石さんの「あり方」。この「あり方」は、資格があればできるというわけではありません。平石さんの経験があるからこそ、そうした「あり方」を実践できるのだと思います。詳しくは来月の同コーナーでご紹介いたします。
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