ちょっと一息

これからの社会とキャリアコンサルタント(後編)NEW

多様性社会における姿勢と今後の可能性

[2019/05/31]

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 2019年2月12日、「これからの社会とキャリアコンサルタント・CDA〜専門性と使命〜」をテーマとするトークセッションが行われました。お話ししていただいたのは、日本キャリア開発協会(JCDA)理事長の大原良夫さんと、日本マンパワー・キャリアコンサルタント養成事業担当取締役の田中稔哉さんです。
 セッションでは、それぞれの課題意識をうかがった後、キャリアコンサルタントの定義や専門性について、また、多様性社会において期待される役割や姿勢、今後の発展に向けた方向性など、改めてキャリアコンサルタントの存在意義を確認できるお話でした。
 本記事はその概要をご紹介する後編となります。ますます個人の価値観が多様化しつつある社会において、キャリアコンサルタントにはどのような役割・心構えが期待されているのでしょうか。さらに、これからの社会で活躍のフィールドがどのように広がっていくのでしょうか。
 人の支援に関心のある方はぜひご一読ください。


●登壇者
 日本キャリア開発協会(JCDA)
 理事長/研究員
 大原 良夫 さん

 株式会社日本マンパワー
 取締役
 キャリアコンサルティング事業推進部長
 田中 稔哉 さん

●モデレーター
 一般社団法人 at Will Work
 代表理事
 藤本 あゆみ さん


価値観が異なっていても理解し合える

藤本 キャリアコンサルタント・CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)の課題意識や専門性をおうかがいする中で、お二人から「多様性」という言葉が何度も出ました。田中さんからは「多様性を生かすためにキャリアコンサルタントは何ができるのか」という問題提起もいただいています。キャリアコンサルタント・キャリアカウンセラーは、価値観の異なる多様な人とどのように向き合えばいいでしょうか。

大原 ある有名な実験があります。中絶に反対するグループと賛成するグループとで、ディスカッションを行ったのです。その際に二つのルールを決めました。一つは、相手の意見を最後まで聞くこと。もう一つは、「なぜ自分はその意見に行き着いたのか」について個人的経験を通して話すことです。実験の結果、自分の価値観は変わらないながらも、お互いの意見を理解し合えるようになったそうです。それまで相手の意見を否定して聞き入れなかった人たちでしたから、大きな変化であると言えます。
 このように、個人的経験を語る対話の場を設けることによって、自分と価値観が異なっていても理解し合えるようになるのです。これもキャリアカウンセラーの役割の一つです。私たちはそれを心に留めながら、価値観の異なる人ともかかわっていくことが大切だと思います。
 また、このことは必ずしも、仕事の悩みや問題を抱える人の相談に乗る場合に限りません。日常のあらゆるシーンで望まれるかかわりだと思います。


多様性社会における姿勢のあり方

藤本 国籍、性別、年齢、価値観などの多様性を理解しようとしても、なかなか難しい場合もあるかと思います。キャリアコンサルタントはどのような姿勢でいればいいのでしょうか。

田中 一つには、相手のエピソードなどの経験を聴くことが挙げられます。プロセスとしての経験を聴くことによって、相手に関心を持ったり、自分とのつながりを感じたりすることができ、多様性を認められるようになるでしょう。
 また、「なぜ、自分は相手の考え方に対して気持ちや体が反応するのか」という、自分自身に対する理解も求められます。自他の違いを知るためには、自分の立ち位置を確認し、主体性ある考えを持っている必要があると思うからです。大原さんがおっしゃった実験を例に挙げれば、「なぜ、自分は中絶に反対するのか、あるいは賛成するのか」ということを、自分にベクトルを向けてきちんと考える必要があるように思います。

大原 同時に、目の前にいるクライエントがどうしたいのかという発想も求められます。「この人は、何を大切にして、どう生きようとしているのか」という発想で、クライエント自身に気づきが生まれるように内省的対話を促そうとすることが、キャリアカウンセラーに望まれる基本的な姿勢だと考えます。

田中 多様性という観点では、たとえば「働きたくない」という価値観を持っている人もいるかもしれません。でもキャリアコンサルタントは、その人にも「自分らしく働きたい」など社会と肯定的につながろうとする思いが1%でもあるはずだという人間観を信じることが大切だと思います。だからこそ、好奇心を持ってクライエントと向き合い、クライエントがありたい自分の姿に気づくような質問ができるのだと思います。

大原 社会のさまざまなバックボーンを理解しようとすることも大切です。たとえば、LGBT(セクシャルマイノリティの総称のひとつ)のクライエントから相談された時、キャリアカウンセラーの心の中に「LGBTへの社会的偏見はなくならないし、仕方がない」という諦めの気持ちがあったり、LGBTに対して無関心だったりすると、それは必ずクライエントに伝わります。クライエントは、ちょっとした言葉づかいや態度から、キャリアカウンセラーの「本音」を敏感に察知しますから。相手に信頼してもらうためには、その人の置かれた社会的状況に関心を持ち続けることも非常に大切なのです。


今後期待される、社会・環境とのかかわり

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藤本 社会は今後も変化し続けていくものと思われます。これからの社会において、キャリアコンサルタント・CDAはどのように役割が広がり、どのように発展していくと考えられるでしょうか。お二人のお考えをお聞かせください。

田中 キャリアコンサルタントは、クライエントが職場や家庭などの周辺環境に働きかけるような意思決定を促すことがあります。しかし、個人の力には限界がありますので、変えることができない環境もあります。そうしたクライエントを取り巻く環境に対して、キャリアコンサルタントがどの程度までかかわることができるかは、今後に向けて期待されるところです。もちろん、それに伴う難しさやリスクは多々あるでしょうが、クライエントが生きやすい、あるいは働きやすい環境になるように介入・調整できる役割を有することができれば、キャリアコンサルタントのフィールドはさらに広がっていくはずです。

大原 キャリアカウンセラー・CDAとして人を支援したいと思っている人は、多くの場合、クライエントとの1対1のかかわりの中で役に立つことを想定しているのではないでしょうか。もちろん、それは非常にすばらしい志だと思います。
 ただ一方で、米国のサニー・ハンセン博士は、チェンジエージェントという考え方を唱えています。チェンジエージェントとは変革推進者という意味です。キャリアカウンセラーは、クライエント個人とのかかわりだけでなく、社会や環境にも目を向けて支援を考える必要があるのではないかと言っています。そうした視点で考えると、JCDAとしても、環境改善に向けて社会に発信していかなければいけないと考えているところです。

田中 私たちは社会の中で生きていますから、まずキャリアコンサルタント自身が社会とのかかわりを自分事として捉えていく必要があると思います。そうして初めて、クライエントが自分と社会とのかかわりを気づけるような働きかけができるのではないでしょうか。

大原 私は、キャリアカウンセリングはすべての人のためにあると考えています。一部の企業や学校、コミュニティに限られるべきものではありません。また、おそらく今後は、クライエントとともに、あるいはクライエントに代わって問題に対応するような役割まで、キャリアコンサルタントに期待されるようになるのではないかと思います。今はちょうど、その入口に立っているような気がしています。
 ですから私たちは、広く社会的な問題にアンテナを立てて、少しずつでもいいので社会を良くしていこうという意識を持つことが大切だと考えます。

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