イベントレポート

キャリア相談サービスの動向と活用 2008

〜 なぜ今キャリア相談サービスが必要とされるのか 〜

Date:2008年07月29日

2008年7月29日、日本マンパワー本社にて標題のセミナーが開催されました。
同セミナーは、島村泰子氏(富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ キャリアデザインサポート室長)の講演(第1部)、セミナー参加者による各グループでのシェアリング(第2部)、上篤氏(CDAインストラクター)、島村泰子氏、小杉恭男氏(日本マンパワー マネジメントコンサルタント)らによるパネルディスカッション(第3部)という3部構成で行われ、講師と参加者の間で熱心な意見交換がありました。以下、その概要をレポートします。

【第1部】講演:キャリアデザインサポート室による若手社員のモチベーションアップ支援

島村泰子(しまむら あつこ)氏

島村 泰子 (しまむら やすこ)氏
  • 株式会社富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ
  • キャリアデザインサポート室長
  • 富士通SSLに入社後、10年間開発部SE・プロジェクトマネージャーとして勤務。その後、人材開発部門幹部職として社内教育、CDP作成、採用を担当。キャリアデザインサポート室を新設し、現在は室長として活躍中。

当社のキャリアデザインサポート室は2007年12月に設立されましたが、その背景には「ダイバーシティ・マネジメント」の考え方があります。個人が主体的に自らの適性・能力に応じて行なう生涯(ライフ)、キャリア形成が重要になっている状況にあって、「多様性の受容」、すなわち人々の違いに価値を見出すだけでなく違いを積極的に活かすことが競争優位となる前提で戦略を進める。そうした考えをもとにキャリアデザインサポート室は設立されました。キャリア支援の内容は、「外的キャリアの形成」では、CDP制度を活用して、職歴や職位を上げていくことが目的になります。「キャリア設定」では、職歴や職位が上がるだけでなく、その人らしい生き方とは何かという「内的キャリアの形成」ことも含めて考える。それが私たちのキャリアの考え方です。

活動方針は、「社員一人ひとりが自分らしさを発見し、個性と能力を十分に発揮ことができる『ライフキャリア形成』の実現を支援することを目的に適切な対応・アドバイス・情報発信を行っていく」というもので、3つの役割があります。1つ目は職業を通しての個人の生き方、働きがいまでを含めた「キャリア形成支援」。2つ目は自分でもきちんと考えてほしいという意味での「キャリアマネジメント支援」(自律・自立)支援。3つ目は「個人と組織との共生の関係をつくる支援」。これは、個人の目指す姿と企業が求める人材との間にギャップをどのように支援するかという役割です。実際に「キャリアデザインサポート室」が実施している業務体系は、「階層教育」「面談・相談」「キャリア教育」「メンタルヘルス」などです。

キャリア相談の実績は、入社2、4、5年目の社員を対象にした「若手社員面談」が1年間に約120名。期間1年間の「トレーニーフォロー」は、述べ人数、約240名。「キャリア相談」は月に5〜10件ぐらい。面談内容で、1人に対して1回で終了こともあれば、面談を数回行う場合や環境調整ということで上司に声をかけて打合せする場合もあります。このキャリア相談で自己解決できるパターンが約8割。上司と環境調整が必要なものが約2割です。相談内容は、自分のキャリアに関することから、メンバーの育成、職場の人間関係、ワークライフバランスに対してのこと、グローバル人材の育成など、やはりさまざまです。

若手社員のキャリア支援は「キャリア支援・キャリア研修の体系」に沿って実施しています。1年目の上期に新人「キャリア研修」を行い、自分のモチベーションの源泉を探ります。キャリア研修が終わったあとに「トレーニー&トレーナー研修」があり、その後、約1年間の「トレーニーフォロー」があります。2年目に「2年目社員コンベンション」を実施し、決意表明を行います。若手社員面談は、(1)自分の能力・スキルを整理しモチベーションの維持・向上につなげる。(2)個人のキャリア形成のアドバイスを実施する。(3)貴重な人材の定着を促進し、人材活用に繋げる。ことを目的に実施しています。実際に、トレーナーが就かなくなった2年目の後半は、「かまってもらえない」「技術が身に付いているのか分からない」「3年目もSEでやっていかれるのか」など非常に悩みの多い時期であり、必ずモチベーションのダウンがあります。ですから、ここで本心を抑えないと離職率アップにつながってしまうのです。そのほか、組織やプロジェクトに対して不満を抱きやすい4年目、自信がついてくる5年目社員の面談も実施しています。

キャリア相談を行う上で、私が意識していることがあります。それは、「人間は自分でも気づかない素晴らしい能力をもっている」。カウンセラーは、「相談者の人権を尊重し、自ら解決できる力を見出す」すなわち自律を支援するということです。基本的には、相談者の話を聴き、情報提供やアドバイスも行います。しかし相談者の要望どおりに何でもこちらが手を貸すのではなく、自分で考えて判断し、行動してもらうことです。そこには、自分でリスクを含めて総合的に判断し、行動、責任をもつという、ある意味「覚悟をきめてもらう」ということも必要だと思っています。

最後に、これはある方の言葉ですが、「最大のモチベーションは個人の成長意欲」ということです。いくらよい制度や相談室があっても、いい研修を実施しても、本人に成長する意欲がなければ成長しません。基本は個人の意識であり、仕事を通しての成長です。ただ、予定どおりに人生や職業生活を歩むことは困難であり、ライフステージや置かれた状況に応じて方向転換や新たな進路選択が必要なのです。人生の節目にデザインして、それ以外はドリフトするという考え方があります。人それぞれキャリアデザインのタイミングは違っていて、そのつどキャリアに関しての設計の見直しと変更が必要だと思います。また、個人を支えるのは、(1)自分の専門性、(2)良好な人間関係、(3)働く意欲という3つの要素であり、ライフキャリアに関する問題解決、支援のために有効なのが、キャリアカウンセリングではないかと思っています。

<講演内容の一部要約>

【第2部】各グループでのシェアリング

キャリア開発支援やキャリア相談室の開設運営についての課題や問題点を共有するために、参加者がグループに分かれ、シェアリングが行われました。
最後に、いくつかのグループから、相談室の立ち上げに伴う課題や問題点などが発表されました。主な発表内容は次のとおりです。(1)人材開発の進め方と社員のモチベーション、(2)Off‐JT とOJTの関係、(3)相談室をどこに設けるか(社内、社外)、(4)若手社員の離職防止対策と組織や上司へのアプローチ、(5)相談室のPRの方法、など。

【第3部】パネルディスカッション

<ファシリテーター/コメンテーター>
CDA(キャリアカウンセラー)インストラクター
上  篤 (うえ あつし) 氏
<パネラー>
株式会社富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ
キャリアデザインサポート室長
島村 泰子 (しまむら やすこ) 氏
日本マンパワー
マネジメントコンサルタント
小杉 恭男 (こすぎ やすお) 氏

【相談室の社内的位置づけについて】

島村 氏私個人としては相談の内容に応じて、相談室と人事部とは分けたほうがいいと思っています。なぜなら、人事部に相談することに敷居の高さを感じたり、自分の評価や周囲の人への影響などを心配したりする方が多いからです。また、人事部は制度や異動などかなり重いものを扱うこともあり、キャリア相談室とは質が違うと思います。その意味で、相談室や人事部、健康管理室など、その人に合った相談窓口を選べるという選択肢を残しておくのがいいのではないでしょうか。

上 氏キャリア相談室を組織上どこに置くかというのは、結局クライエントや社員の方から見て、行きやすいかどうかが重要なのかもしれませんね。行きやすいのであれば人事部の中でもいいのかもしれません。ある会社では、人事部の外にあった相談室を、会社の事情で中に入れることになりました。相談数が減るのではないかという心配はありましたが、結果的には減りませんでした。つまり、相談室はどこに置こうが、相談機能に対して社員がどう見ているかで決まってしまうと思うのです。あそこに行っても大丈夫だ、人事や上司に情報が漏れるわけではない、そんな社員の信頼感、安心感があれば人事部の中に置いても機能すると思います。

【相談室を運営する上での課題や取り組み】

上  篤氏(うえ あつし)氏

上  篤 (うえ あつし)氏
  • CDA(キャリアカウンセラー)インストラクター
  • メーカーで人事を経て、筑波大学大学院修士課程教育研究課カウンセリング専攻修了。現在はキャリアカウンセラー養成講座講師や大手企業相談室のスーパーバイザーとして活躍中。

島村 氏キャリア相談を実施するうえで、非常に難しいのが環境調整(組織調整)です。相談内容が本人だけに関するもので、自身で解決できる問題であればいいのですが、そうではない場合、環境調整が必要になります。その場合、問題のある部署や上司を悪くいうのではなく、直接会って、先ず話しを聞き、相談者と上司との意識にズレがないかなどの確認を行います。もし上手くいっていない場合は、問題の本質をさぐり解決策を見出し提案します。また、他部署などの事例などを紹介して、「こういう方法がありますが、どうですか?」というような言い方でアドバイスなどもしています。環境調整というのは組織・制度への介入ですから、例えば、当社はキャリアデザイン制度という制度に沿ってキャリア面談をしていますが、その中でうまくいっていないところがあれば原因を分析し、制度の運用がまずければ建設的な形で意見を申し上げています。

上 氏改めて1つ大事だなと思うことは、相談室やカウンセラーが組織の中でどれだけ信頼感を持たれているかということですね。人事部やほかの部署のマネージャーなどとの接点が全然なく、相談室に閉じこもってキャリアカウンセリングだけをやっていては信頼感を持たれません。いざ必要なときに他部署へ行っても協力を得ることはできないわけです。つまり、組織からの信頼感をふだんからどう作っておくかが、結果として組織調整、環境調整につながっていくのだと思います。

【相談室のPRについて】

小杉 氏キャリア相談室のPRは非常に難しく、なかなか相談件数が増えないという担当者の声をよく聞きます。相談件数を増やすには全社的な仕組みと連動することが必要だと思います。例えば、上司とのキャリアプラン面談をする場合、その前に必ず「キャリア相談も受けられますよ」と知らせるように、全社的な仕組みとセットで実施していくことが重要です。

島村 氏私の会社の場合、「キャリアデザインサポート室を開設しました」とホームページに出した瞬間に申し込みがあったのです。その方をはじめとして、ある人の相談を継続的にやっていくと、来談者が他の人に話すようなのです。同期と話していて、何か困っていることがあると聞くと、「じゃあ、キャリア相談室に行ってみたら」ということで来てくれた方もいました。

上 氏先ほど口コミというお話しがありましたが、良い口コミが広がると影響力が大きそうですね。一方、悪い口コミには要注意です。それは、守秘義務違反についてです。これが広まったら、もう歯が立ちません。ですから、倫理をきちんと守っているということを、単に形式上ではなく、実際の行動でどう示すかというところが必要なところだと思います。

【メンタルヘルスの問題】

島村 氏私の会社では健康管理室、人事サポートライン、私たちのいるキャリアデザインサポート室という3つの相談体制を設けていますが、メンタルの問題で会社を休んだ場合は健康管理室が、出社した場合は職場と健康管理室で対応しています。そこで、復職できるという状況であれば人事と健康管理室、さらに私たち相談室も入り、どういう形で復職させたらいいかについて話し合います。メンタルの問題を抱えた方に対して、相談室が行っているのはキャリア面談ではありません。なぜなら、鬱病などの休職で復職した方にキャリアという言葉は非常に重いと思うからです。そこで「まず会社に出てきてください」「まず仕事についてください」と話して、少し落ち着いたあとで「必要であればキャリア相談をしましょう」という感じにしています。逆に健康管理室に相談に行った方が、実はキャリアの相談ではないかということで、健康相談のほうから相談室にリファーが来ることもあります。

【相談室を立ち上げる際の注意点 〜経営層の納得〜】

小杉恭男(こすぎ やすお)氏

小杉 恭男 (こすぎ やすお)氏
  • 日本マンパワー
  • マネジメントコンサルタント
  • 人事・労務管理・人材開発を20年勤めた後、独立。現在、YKライフ・キャリア研究所代表として、企業内の人材開発・人材育成研修や、カウンセリングで活躍中。

小杉 氏キャリア相談室を立ち上げるにあたっては、経営トップや経営層への説得が必要です。その成功の鍵は、キャリア相談サービスのメリットをどう伝えるかにかかっていると思います。例えば、キャリア相談をすることによって若年者の離職に歯止めがかかるということを実証的に伝えるとか、あるいは、組織の中で自分の実現したいことと達成しなくてはいけないことがつながれば意欲が湧いてくるわけで、その結果として生産性が向上し業績向上につながることを理解してもらうとか。そのための仕掛けやデータを踏まえた説明が必要です。また、それには相談室を設けようとする皆さんの粘り強さも必要だと思います。

島村 氏キャリア相談室を設置するには、経営層の許可を得るなどいろいろな準備が必要ですが、当社の場合、私が人材開発部にいた当時からキャリア相談を実施していたことが、相談室の立ち上げにつながりました。つまり、どんな小さなスタートでもいいので、まず何かできることから始めることが重要なのです。この方なら賛同してもらえると思ったら、今、世の中の状態はこうですと必ず数値データで示し、理解を得ることが有効だと思います。

上 氏組織ですから、やはり上の方の理解というのは絶対的に必要ですよね。理解してくれる人、してくれそうな方であれば、直属の上長でないにしても、その人たちの存在というのはすごく大事だと思います。

【相談室で働くキャリアカウンセラーの条件】

島村 氏当社は、まだ立ち上がったばかりですが、少し人員を増やしていきたいと思っています。現在、専任が3人いるので兼務の人を増やすのもいいと思っています。ただ、どうしても相談の中でIT用語やSE業務の話が出てくるので、SEの仕事を理解している人が必要です。また、やはり人に興味があることが大切です。そして、自分でもきちんと勉強をし、基本的なスキルとしての資格を持っている人。以上の3つがポイントです。育成の観点で言うと、これはもう実践を積むということに尽きると思います。私たちが立ち上げたときには、基本的知識を共有するということで、メンタルヘルス、労働法などのことも含めて勉強会をやりました。そのように自己啓発を含めての育成という形をとりました。

小杉 氏私は、関わっている企業の各事業部のスタッフに社内キャリアカウンセラーになっていただきたいと思っています。事業部のスタッフはその事業の内容をよく分かっていますので、スタッフに手を挙げてもらえれば、当該事業も含めて他の事業に関する相談にも対応できるのではないかと思います。それから、カウンセラーとして一番大事なことは、人の話を聴けるかです。社内キャリアカウンセラーは、総じて相談者のキャリア上の悩みを解決してあげたいという強い気持ちがありますので、話を聴くよりもしばしば情報提供に走りがちです。もちろん情報提供も必要ですが、話をしっかり聴かないと適切な情報提供ができません。ここがやはりカウンセラーとして一番大事なところだと思います。また、キャリア支援というのは、社内でも社外でもキャリアカウンセラーだけでは成り立ちません。やはり管理職が自分の部下のキャリア形成支援をしていくという意識、そういう環境づくりがあってはじめて、キャリア相談のサービスが活きてくると思うのです。

上 氏どういう人がキャリアカウンセラーに向いているかという話ですが、「肯定的に相手を見ることができる」というのも重要です。相談室に来る人は、だいたい落ち込んでいる場合が多い。キャリアカウンセラーにはどうしてもその人の弱みが見えてしまう。けれども、その人の中の良さや力を発見してきちんとフィードバックできるというのも、すごく大切なキャリアカウンセラーの資質です。それは、相談者を勇気付け、力を引き出すことにつながります。

【社内・社外のカウンセラーの活用】

小杉 氏私が関わっている企業のキャリア相談では、社外キャリアカウンセラー4名で対応していますが、やはり、社外キャリアカウンセラーと社内キャリアカウンセラーの両方が、お互いに連携しながら対応していくのがいいと思います。例えば、「自分は今営業を担当しているが、将来的に営業で行くのかマーケティングで行くのか方向性が分からない」こんなケースの場合は社外キャリアカウンセラーがいいと思うのです。他社も含めて豊富なキャリア相談の経験もあり、キャリアの専門家として相談者の方向性を考える支援ができると思います。そして、相談者がある程度方向性を見出したら、次は社内キャリアカウンセラーとの面談になると思います。例えば、相談者がマーケティングに行きたいと考えた場合、当社のマーケティングはどういう機能を持っているのか、どういう仕事を行っているのかなどは社内の事情に詳しい社内キャリアカウンセラーから聞いたほうがいいわけです。それから社内キャリアカウンセラーに対するスーパーバイザーとしての社外カウンセラーも必要かと思います。

<講演内容の一部要約>